New Food Industry 2022年 64巻 9月号

総説

パン焼成における烏骨鶏卵白の添加効果

豊﨑 俊幸(TOYOSAKI Toshiyuki)

Effects of adding silky fowl egg albumen in breadmaking
*Corresponding author: Toshiyuki Toyosaki
Affiliated institutions: 
Koran Women’s Junior College, Department of Foods and Nutrition, Fukuoka, 811-1311, Japan
 
Key Words: Silky fowl egg albumen, Hen’s egg albumen, Dough, Hardness, Adhesion, Gluten, Breadmaking
 
Abstract
 In order to elucidate the histological functional properties of silky fowl egg albumen during bread making, we examined the effects of albumen on gluten formation from various perspectives, comparing them with domestic fowl albumen. The lubricious texture of gluten extracted from silky fowl egg albumen fraction-added dough was not observed in gluten extracted from domestic fowl albumen fraction-added dough. With regard to the hardness and adhesiveness while the dough is baking, the degree of hardness tended to increase over time, while the adhesion tended to decrease in the silky fowl egg albumen fraction-added dough, as compared to the hen’s egg albumen fraction-added dough. The dough rising rate during fermentation tended to be higher in the silky fowl egg albumen fraction-added dough, as compared to the hen’s egg albumen fraction-added dough, revealing a positive correlation between added albumen and both hardness and adhesion. Polymerization of gluten during fermentation was triggered more readily in silky fowl egg albumen fraction-added dough than in hen’s egg albumen fraction-added dough.
 
要 約
 烏骨鶏卵の新たな食品機能特性を解明するために,製パンにおけるグルテン形成に対する卵白の効果について,鶏卵との比較・検討した。発酵中の生地の膨張率は,鶏卵白画分を添加した生地と比較して,烏骨鶏卵白画分を添加した生地の方が高い傾向があった。発酵中のグルテン形成量は,鶏卵白画分を添加した生地よりも,烏骨鶏卵白画分を添加した生地の方が容易に増加した。烏骨鶏卵白画分添加生地から抽出されたグルテン表面の滑らかさは,鶏卵白画分添加生地から抽出されたグルテン表面では観察されなかった。焼成後のパン生地の硬度と付着性については,鶏卵白を添加した生地と比較して,烏骨鶏卵白を添加した生地では,時間の経過とともに硬度が高くなる傾向が観察された。烏骨鶏卵白画分および鶏卵白画分には硬さおよび接着性の両方との間に正の相関関係があることが確認された。
 

解説

t-PA産生亢進作用を持つ酒,コーヒー,香水の成分など(経口線溶療法Ⅱ)

須見 洋行(SUMI Hiroyuki) ,満尾 正(MITSUO Tadashi),矢田貝 智恵子(YATAGAI Chieko)

経口線溶療法(Ⅰ)ではウロキナーゼ,ルンブロキナーゼ,ナットウキナーゼの酵素剤を例に1),自らに備わるnatural t-PA(tissue-plasminogen activator)を呼び起こさせる療法について概説した。今回,活性化機序は単なる線溶系だけではまだ説明はつかないが,t-PA産生亢進に働き,それが血中プラスミノーゲンをプラスミンに変換する可能性が示唆されている食品や化粧品の主に非酵素成分について紹介する(図1,表1)。
 

燕の巣の栄養成分と有効成分

肖 黎(Li Xiao)
Nutrient composition and active components of edible bird nest

Authors: Li Xiao1*, Dong Liang Wang 2, 3
*Correspondence author: Li Xiao1 1
Affiliated institution:
1 The Nippon Dental University, School of Life Dentistry at Tokyo [1-9-20 Fujimi, Chiyoda-ku, Tokyo 102-0071, Japan]
2 Beijing Xiaoxiandun Biotechnology Co., Ltd., [No. 150, Guanzhuang Road, Changying Town, Chaoyang District, Beijing 100020, China]
3 Hebei Edible Bird's Nest Fresh Stew Technology Innovation Center, Xiaoxiandun edible bird's nest production center, [Bazhou Economic Development Zone, Langfang 065700, China]
 
Key Words: Edible bird nest, Nutritional composition, Active ingredients, Pharmacological action, Protein, Amino acids
 
Abstract
  Edible bird nest (EBN) is a traditional luxury ingredient which produced by swiftlets during their breeding season in Southeast Asia and China. In China, EBN also has been used as a traditional Chinese medicine for the treatment of feebleness-related diseases. The main nutrient composition of EBN are crude proteins (about 50%), carbohydrates (25.4% ~ 31.4%) and minerals. Although there are more than 18 amino acids (including 9 essential amino acids) were detected in EBN, EBN cannot provide high-quality proteins. The most important active component in EBN is sialic acid (SA) which plays an important role in cell-cell recognition and signal transduction. The amount of SA in EBN is about 10% that is the highest among nature products. Pharmacological effects of EBN are mainly related to SA. Experimental studies showed that EBN has antioxidative, anti-aging, anti-inflammatory and anti-antiviral activities. EBN could promote cell proliferation and division in corneal cells and adult stem cells. EBN exhibited neuroprotective effects and could improve memory and learning ability in animal babies. However, more studies with higher evidence levels are required.
 
要約
 ツバメの巣(EBN)は,アナツバメが繫殖期に唾液から作る巣で,東南アジアや中国で伝統的な高級食材として使用されている。また,中国では漢方薬として虚弱体質の治療に用いられている。EBNの主な栄養成分は粗タンパク質(約50%),糖類(25.4%〜31.4%),ミネラルである。EBNには18種類以上のアミノ酸(必須アミノ酸9種類を含む)が検出されたが,良質なタンパク質補給源としては不適切である。EBNの最も重要な活性成分はシアル酸(SA)であり,細胞間の認識や情報伝達に重要な役割を担っている。EBNに含まれるシアル酸の量は約10%で,自然食品の中では最も多い。EBNの薬理効果は,主にシアル酸に関連している。実験的研究により,EBNには抗酸化作用,抗老化作用,抗炎症作用および抗ウイルス作用があることが示唆された。EBNは,角膜細胞および成体幹細胞の細胞増殖および分裂を促進することが観察された。EBNは,神経保護効果を示し,動物の新生児と幼児における記憶および学習能力を向上させたことが明らかになった。しかし,今後より多くの研究が必要である。
  

連載解説

フォニオ(アチャ)

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu),楠瀬 千春(KUNOSE Chiharu)

 フォニオ(Digitaria exilisおよびDigitaria iburua)は,おそらく最も古いアフリカ穀物である。何千年もの間,西アフリカ人は乾燥した場所,サバンナでフォニオを栽培してきた。実際フォニオは,かつては彼らの主食であった。他の地域の人でも多少は聞いたことがあるだろうが,カーボベルデからチャド湖にかけての地域では,今でもこの作物は重要な位置を占めている。マリ,ブルキナファソ,ギニア,ナイジェリアの一部の地域では,主食または主菜として食されている。毎年西アフリカの農民は約30万ヘクタールをフォニオ耕作に費やし,そして作物は300万から400万人の食料をまかなっている。古くから存在し,広く重要視されているにもかかわらず,フォニオの進化や起源,分布,遺伝的多様性に関する知識は ,西アフリカ国内でもほとんど知られていない。この作物は,モロコシ,パールミレット(トウジンビエ),トウモロコシの何分の一かの関心しか持たれておらず,農村経済における重要性と食糧供給の増加の可能性を考えると,この作物はほんのわずかしか注目されていない。(実際,何百万人もの人々に利用されているにもかかわらず,フォニオに関する科学論文は,過去20年間で19本しか発表されていない。)その理由の1つは,植物が科学者やその他の種々決定者によって誤解されているということである。
 

コーヒー博士のワールドニュース

コーヒー習慣がリスクを下げる病気のまとめ

岡 希太郎(OKA Kitaro)

 1日3-4杯のコーヒーを飲む習慣が発症リスクを下げるという病気をまとめました。よくある高血圧はコーヒーとは無関係です。それでも,高血圧が原因の脳卒中や心血管疾患の発症リスクは,コーヒーを飲むことで下がります。一方,脳神経障害のパーキンソン病リスクは下がりますが,アルツハイマー病には確たるエビデンスがありません。疫学研究が難しい原因の1つとして,認知症の場合,自己申告が困難ということもあって,きちんとした調査は今後の展開に注目です。以下,病気ごとにまとめます。
 

伝える心・伝えられたもの

—金々先生と甘藷先生—

宮尾 茂雄 (MIYAO Shigeo)

小雨の降る夕暮れ時,机周りがあまりに雑然としているのが気になって,少し片づけようという気持ちになった。いつか読みたいと集めたものが雑多と積まれた山の中,江戸時代中頃,江戸で盛んに出版された黄表紙」(黄色表紙の絵入り読み物)に目が留まった。ページをめくっていると,黄表紙最初のベストセラーといわれた「金々先生栄華夢」(安永4(1775)年初摺,恋川春町作・画)の一場面,黒い道中羽織に脚絆をつけ,大きな道中傘をもつ旅姿の男がいた1)。舞台は運気の神様として知られた目黒不動尊。長旅に疲れた空腹の主人公は,名代の粟餅屋に立ち寄る(図1)。奥座敷にあがり,粟餅が搗きあがるのを待つ間もなく,眠り込む(図2)。夢の中で大金持ちの養子となった主人公の運命は如何に。私は格段の甘党というわけではないが,霊験あらたかな目黒不動尊に参拝し,名代の粟餅を食べてみたくなった。

 

エッセイ 本郷は坂の町

安住 明晃 (AZUMI Akiteru)

 東京は東西に長く東に行くと東京湾になる。低地はいわゆる下町に相当し,都心部は武蔵野台地と低地の境目にあり,台地と低地の高低差がある。そのため千代田区,港区,新宿区,文京区と都心部に坂が多い。そしてその境目にあたる文京区は坂の町である。なにしろ東京の坂の1/3にあたる113の坂道が文京区にあり,本郷は坂の上の台地にあたる。上野広小路からくれば「切通し坂」を上る事になり,後楽園からくれば「東冨坂」(真砂坂)を上ることになる。本郷には小さな通りや多くの坂道が点在する。まず,菊坂周辺のMAPを参照しながらみるとしよう(13の長い坂が菊坂)。14〜15が本郷通り,11の東冨坂が春日通りである。東冨坂は12の旧冨坂が狭く,路面電車を通すために造られた坂である。旧町名の本郷真砂町へ上がるので真砂坂というが実際の坂は無いようだ。通勤に利用していたバス停には真砂坂上とあり旧町名の名残が見える。小説の「真砂町の先生」で覚えがあったため,真砂坂だと思っていた(真砂坂でも通用する)。