New Food Industry 2021年 63巻 11月号

研究解説

そば成分特にルチンとその関連成分の尿酸産生と高尿酸血症に対する作用について

安達 真一 (ADACHI Shin-ichi),小山 美冬(OYAMA Mifuyu),近藤 真司(KONDO Shinji),矢ヶ崎 一三(YAGASAKI Kazumi)
 
Preventive and alleviating effects of buckwheat and its main component,
rutin, and related phytochemicals on hyperuricemia and insulin resistance
Authors: Shin-ichi Adachi 1, Mifuyu Oyama 2, Shinji Kondo 1 and Kazumi Yagasaki 1*
*Corresponding author: Kazumi Yagasaki 1
 
Affiliated institutions:
1 Center for Bioscience Research and Education, Utsunomiya University,
[350 Minemachi, Utsunomiya, Tochigi 321-8505, Japan]
2 Suntory Malting Ltd., [2910-1, Nakaokamotocho, Utsunomiya, Tochigi 329-1105, Japan]
 
Key Words: buckwheat, rutin, taxifolin, hyperuricemia, hyperglycemia, insulin resistance, type 2 diabetes
 
Summary
 Buckwheat noodle is one of the traditional foods in Japan and Asian countries. Various phytochemicals have been analyzed and found in buckwheat chaff and flour. Of these, rutin, a quercetin glycoside, is well known as a main phytochemical. Buckwheat also known to contain other phytochemicals such as apigenin, luteolin and their glycosides. High uric acid (UA) state in blood/plasma/serum is called hyperuricemia, this leading to gout and aggravation of the diabetic state such as insulin resistance (IR). We have recently contrived an assay system adopting cultured hepatocytes as a first screening system, and purine bodies-induced hyperuricemic model mice as a second screening system. Employing these in vitro and in vivo assay systems, we examined various phytochemicals in buckwheat. Rutin, a glycoside of quercetin, was found to suppress both UA production in cultured hepatocytes and hyperuricemia in the model mice. We have also found that type 2 diabetes (T2D) model KK-Ay/Ta mice accompany hyperuricemia as well as hyperglycemia and IR. Taxifolin, a structurally similar phytochemical to quercetin, has been demonstrated to suppress hyperuricemia and IR as well as hyperglycemia in KK-Ay/Ta mice. Germinated buckwheat flour was also found to suppress IR in the T2D model mice. Thus, buckwheat and its components are considered to be useful for prevention and alleviation of hyperuricemia and IR in the T2D state.
 
 蕎麦(そば)(Fagopyrum esculentum Moench)の実は欧米では家禽・家畜の飼料,蕎麦粉は朝食のパンケーキ用に使用されるというが,日本では蕎麦粉をもとにした麺をそばつゆにつけて食するのが一般的である。「ときそば」という落語にも出てくるように,現在でいうファストフードのはしりとも言え,日本人の伝統食品の一つと言えるであろう。血液(血漿,血清)中の尿酸(uric acid, UA)濃度が正常範囲を超えて高い状態を高尿酸血症(hyperuricemia)という。この高尿酸血症は痛風(gout)の原因となることはよく知られている1-3)。本稿では,ルチン(rutin)をはじめとする蕎麦中の各種植物化学物質(phytochemicals)の高尿酸血症に対する作用を細胞培養系と高尿酸血症モデル動物で検討した私達の研究例を基にして述べてみたい。近年,高尿酸血症は他の疾患3-5),例えば2型糖尿病の増悪要因ともなりうることが指摘されているので,この点にも若干触れてみたい。
 
   

グルテン形成時における中鎖脂肪酸含有油脂の界面化学的特性

豊﨑 俊幸(TOYOSAKI Toshiyuki)
 
Surface chemical properties of medium-chain tryacylglycerols during gluten formation
 
Corresponding author: Toshiyuki Toyosaki
 
Affiliated institutions:
1 Department of Foods and Nutrition, Koran Women’s Junior College, Fukuoka, 811-1311, Japan
 
Key Words: Medium-chain tryacylglycerols (MCT), Long-chain tryacylglycerols  (LCT), Gluten, Fat spread, Surface chemistry, Surface tension, Surface hydrophobicity
 
Abstract
 The primary objective of this study was to examine the relationship between MCT and gluten from the standpoint of surface chemistry. High emulsifying activity was shown in the MCT fat spread. The adsorption rate of gluten tended to increase as the emulsification output of MCT fat spread. The amount of gluten adsorbed per unit area of MCT fat spread tended to increase as the emulsification. As for the water absorption rate with respect to the gluten concentration, MCT fat spread tended to decrease. The adsorption rate of gluten with respect to the lipid concentration showed an increasing tendency in MCT fat spread as the concentration increased. The surface tension with respect to the gluten concentration increased in a concentration-dependent manner in the case of MCT. The surface hydrophobicity was high in the MCT fat spread. Medium-chain fatty acids for gluten showed high emulsifying properties for unsaturated fatty acids. A positive correlation was found between emulsifying activity and medium-chain fatty acids. On the other hand, a negative correlation was confirmed for unsaturated fatty acids. Medium-chain fatty acids showed high surface hydrophobicity and tended to increase as the number of carbon atoms increased. On the other hand, unsaturated fatty acids showed low surface hydrophobicity and tended to be lower as the degree of unsaturation increased. Furthermore, in the case of medium-chain fatty acids, the difference in degree of unsaturation in the case of unsaturated fatty acids with unsaturated fatty acids was presumed to reflect the difference in surface chemical properties with gluten. 
  From those results, it was clarified that the MCT fat spread has different surface chemical properties with respect to gluten.
 
 
要約
 MCTとグルテンとの関係を界面化学の手法を利用して追跡した。MCTおよびLCTいずれもファットスプレッドの形状で高い乳化活性を示した。グルテンの吸着率は,MCTおよびそのファットスプレッドは乳化出力が高くなるほど増加傾向を示した。一方,LCTおよびそのファットスプレッドは30W以降ほとんど変化を示さなかった。また,単位面積当たりのグルテン吸着量は,MCTおよびそのファットスプレッドは乳化出力の上昇とともに増加傾向を示した。一方,LCTおよびそのファットスプレッドは20W以降変化しなかった。グルテン濃度に対する表面張力は,MCTの場合濃度依存的に増加したが,LCTの場合0.125%で最大となり,それ以降はほぼ一定値を示した。表面疎水度は,MCTおよびそのファットスプレッドは,LCTおよびそのファットスプレッドに比較して高い値を示した。グルテンに対する中鎖脂肪酸は,不飽和脂肪酸に対して高い乳化性を示した。乳化活性と中鎖脂肪酸の間には正の相関が確認された。一方,不飽和脂肪酸は負の相関が確認された。不飽和脂肪酸に比して中鎖脂肪酸には高い表面張力が確認された。また,不飽和度との間には正の相関が確認された。中鎖脂肪酸は高い表面疎水度を示し,炭素数が増すほど高い傾向を示した。一方,不飽和脂肪酸は低い表面疎水度を示し,不飽和度が増加するほど低い傾向を示した。
 以上の結果から,グルテンに対してMCTファットスプレッドは界面化学的特性が異なることが明らかとなった。さらに,中鎖脂肪酸の場合は炭素数が不飽和脂肪酸の場合は不飽和度の違いが,グルテンとの界面化学的特性の違いを反映しているものと推察された。
 
   

ナットウキナーゼの美肌効果
―循環改善およびメラニン産生阻害について―

須見 洋行(SUMI Hiroyuki),丸山 眞杉 (MARUYAMA Masugi),矢田貝 智恵子(YATAGAI Chieko)
 
 納豆の長期間摂取により化粧のりが良くなることが報告1)されているが,その要因の一つとしてナットウキナーゼがあげられる。これまでの研究でナットウキナーゼそのものに強いエラスターゼあるいはコラゲナーゼ活性が認められている2, 3)。また,ナットウキナーゼは血栓溶解酵素として知られているが4),キニン産生酵素(カリクレイン様酵素)でもあり血液循環の改善に働いていると考えられる5)。この他,チロシナーゼを阻害し,マウスのメラニン産生細胞に対して強い阻害能を有する6)。今回,このような多面性を有するナットウキナーゼの美肌への効果に着目し,まとめた。
 
 

昨今生産者が増えている“酢酸菌にごり酢”の実態調査

梶山 大地 (KAJIYAMA Daichi),栁澤 琢也 (YANAGISAWA Takuya),清野 慧至 (SEINO Satoshi),奥山 洋平 (OKUYAMA Yohei)
 
Research on vinegar containing acetic acid bacteria whose producers are increasing.
 
Keywords: acetic acid bacteria, unfiltered vinegar, fermentation, aromas, amino acids
 
Authors: Daichi Kajiyama 1, Takuya Yanagisawa 1, Satoshi Seino 1, Yohei Okuyama 1*
*Correspondence author: Yohei Okuyama
 
Affiliated institution:
1 Kewpie Corporation
2-5-7 Sengawa-cho, Chofu city, Tokyo, 182-0002, Japan.
 
Abstract
 Vinegar is a fermented food produced by acetic acid bacteria. In most commercial kinds of vinegar, the acetic acid bacteria are removed by filtration. On the other hand, in recent years, some brewers have started to sell vinegar with the acetic acid bacteria left in the vinegar without fine filtration. Claiming to have acetic acid bacteria in the vinegar enhances the uniqueness of the production method, flavor, and health functions, and is expected to increase the added value. In this paper, we surveyed the production status and characteristics of vinegar containing acetic acid bacteria.
 
要旨
 酢は酢酸菌により生産される発酵食品である。大半の市販の酢において,酢酸菌はろ過により除去されている。一方,近年では精緻なろ過をせず酢酸菌を残した酢を販売する醸造元もある。酢酸菌入りを謳うことで製造方法や風味,健康イメージといった独自性を高め,付加価値の向上が期待できる。本稿では,酢酸菌を含む酢について,製造状況や特徴を調査した。
 
 

解 説

ウイスキーとトランジスタ

古賀 邦正 (KOGA Kunimasa)
 
 ウイスキーがナノレベル(1 nm(ナノメートル)は1 mの10億分の1)の素材を用いた薄膜トランジスタ(TFT)作りに利用できたという,何だか興味深いレポートが発表された1)。トランジスタはシリコン(ケイ素)などの半導体から構成されていて,電気信号を増幅することやON/OFFすることができる。真空管に代わってトランジスタが現在の電子機器の基本になっている。薄膜トランジスタは主に液晶ディスプレイなどに使われている薄くて小さなトランジスタであり,それを構成する「層剥離グラフェン」などを作る際にウイスキーが効果的に働くというのだ。「層剥離グラフェン」とはどういうものなのだろうか。
 われわれが昔から使っている鉛筆の芯は黒鉛,すなわちグラファイトからできていることはよく知られている。炭素の同素体の一つである黒鉛の結晶は六角形の巨大な網目をなす層が弱いファンデルワールス結合で引き合って積み重なっていて,六方晶系に属する層状構造をしている。このような構造上の特徴があるため著しい異方性を示すという。例えば,電気抵抗は層面に平行の方向では10-3Ω・cm程度だけれど,垂直方向だとその100倍程度になる。グラファイトの一般的な性質としては,耐熱性・耐熱衝撃性・耐蝕性に富み,電気・熱伝導性が比較的よく,滑性があるなどの特徴が知られている。こういった性質が活かされて,昔から鉛筆の芯や炭素電極などに使われている。
 このグラファイトを構成する層は「グラフェン」と呼ばれる。グラフェンは炭素原子が蜂の巣状(ハニカム状)に互いに強固に共有結合した単原子シート(図1)である。グラファイトの物性研究は20世紀初めにさかのぼることができるほど長い歴史をもつが,グラフェンについては実際に作り出すことができなかったため,ずっと理論研究のみにとどまっていたという。しかし,2004年に英国マンチェスター大学のアンドレ・ガイムとコンスタンチン・ノボセロフが初めて黒鉛からグラフェンを分離することに成功したことで状況が一変した。その後は,実験,理論とも爆発的に研究が進み,有機化学から素粒子物理学に至る広い分野にわたる基礎研究,次世代エレクトロニクスや新素材への応用研究が世界規模で続いているようだ。
 
 

連載

複雑な病気セリアック病3

瀬口 正晴 (SEGUCHI Masaharu),吉野 精一(YOSHINO  Seiichi)
 
 診断は複雑であり,高レベルの臨床的疑惑を必要とする傾向があるため,CD(Celiac disease)は西洋人集団で最も診断不足の状態の1つである。CDの正確な診断は,CDの疑いのある個人にとって非常に重要である。偽陽性の結果は,無制限の生涯にわたる無グルテン食を強いることになる。これは,被災者とその家族の両方にとって大きな課題である。偽陰性の結果は,CD患者としての潜在的な健康障害を負わせる。特に重篤な症状のある患者の診断の遅れは,主に悪性腫瘍による長期合併症のリスクと死亡率の増加に関連するので,避けるべきである179)。しかし,残念なことに遅延は一般的であり,診断前の症状の平均持続期間は4.5年から11年である。さらに,患者の4分の1は,診断が行われる前に3人以上の医師に相談する必要がある180)。CDはさまざまな腸外症状を伴うため,患者は,皮膚科医,リウマチ専門医,歯科医,内分泌専門医,神経科医などの小児科医や消化器専門医以外のさまざまな専門家に診察される。
 CD関連の合併症の一部は,CDが時間内に治療されない限り,元に戻せない場合がある。たとえば,成長遅滞,骨粗鬆症,および異常な歯列は,早期に治療しなければ永久に残る。これらの理由から,集団検診に適したCDが提案されている。ただし,広範な集団スクリーニングの役割については議論の余地がある。特に,無症候性の人に対するスクリーニングの利点は,健康状態の増加が無グルテン食への固執による負担を上回るかどうかは不明であるため,依然として議論の対象となっている。集団検診に対する賛成論と反対論は,Aggarwalと同僚によってまとめられている177)。現在,第一度近親者または他の近親者が生検で確認されたCDを持っている人には,スクリーニングが推奨されている。CDに関連することが知られている自己免疫疾患のある人もスクリーニングの候補者である。今後の研究では,無症候性患者のCD診断の実際的な利点に焦点を当て,診断前後の生活の質の測定および無グルテン食の導入に重点を置くべきである177)。大量スクリーニングの効果的な代替法は,微妙な症状または非定型症状のみを抱え,リスクグループに属する個人の間での血清学的スクリーニングによる積極的な症例発見である。教育と医療従事者の意識向上を伴うこのアプローチにより,フィンランドの一般集団で多数のCD患者が検出された181)。
 
 

伝える心・伝えられたもの

—桂川甫周と娘みねの御維新—

宮尾 茂雄(MIYAO Shigeo)
 
 一人の聡明な心優しい少女と出会った。名前をみねという。前著「顕微鏡に出会う」を執筆中のことである。西洋式の顕微鏡が日本に渡来した江戸時代中期,将軍家御典医(江戸時代,幕府や大名のおかかえの医者)をつとめる桂川甫周国瑞と弟森島中良は,当時としては珍しい舶来の顕微鏡を所有していた(図1)。その観察記録が「紅毛雑話」( 天明7(1787)年刊)に残っている。桂川家は蘭方医として,幕末まで将軍家に仕えた。みねは桂川家7代,甫周国興の娘である。今回はみねの昔語り「名ごりの夢 蘭医桂川家に生まれて」から,幕末から明治へと移り変わる江戸の町にタイムトラベルしたいと思う1)。
 
 

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

ヘクソカズラPaederia foetida L.
(P. scandens (Lour.) Merr.) (アカネ科Rubiaceae)
白瀧 義明(SHIRATAKI Yoshiaki)
 
 秋も深まり,山々が赤や黄色に染まる頃,山道を歩いていると小さな茶色の果実が蔓の途中から房状にぶら下がっているのを見かけます。ヘクソカズラは,日本全土,中国,東南アジアに広く分布する蔓性多年草で,日当たりのよい山野,草地,道端などに自生し,葉や茎などを傷つけると悪臭を放つことからヘクソカズラ(屁屎葛)とよばれます。花を伏せて置いた姿が灸や花の中の赤い様子が灸を据えた跡に見えることからヤイトバナ(灸花)(「やいと」とは灸のこと)とよばれ,花に唾をつけると,人の体によくくっつくため,かつては鼻の上に花をくっつけて「天狗の花」といい子供のよき遊び道具になりました。かわいらしい花を咲かせる様子や花を水に浮かべた姿が田植えをする娘(早乙女)のかぶる笠に似ていることからサオトメバナ(早乙女花)ともよばれます。英名はSkank vine(スカンクの蔓),Stink vine(臭い蔓)といい,中国植物名(漢名)では鶏屎藤とよばれ,いずれも悪臭に由来しています。
 

コーヒー博士のワールドニュース

COVID-19変異株に備えて/免疫力アップの絶好機

岡 希太郎
 

 密を避けるのは難しい,ワクチンは2回打っても完全ではない。さらには特効薬は何もない・・・ならばどうしたらいい? 
 そこで必須栄養素の中から,ウイルスに対する自然免疫力を高める成分と食材を選んでみました。人混みに居ても罹らない人は罹らない,自然免疫力の個人差は思った以上に大きいようです。
●薬食同源の新型コロナ対策/コーヒーだけでは不足です
 新型コロナ第5波の感染拡大の最中,「TOKYO2020は大成功でした」と政府は平然と言いましたが,その陰で,40代50代が自宅療養中に重症化し,終わってみれば200人もの人命が自宅で失われました。TVでは専門家が「デルタ株が強いから」と諦め気味のコメントを述べて,司会者は「ウイルスが変わっても蜜を避ける対策は同じです」とまるで他人事。筆者が残念に思うのは,TVの料理番組に「コロナ対策レシピ」が出てこないことです。