New Food Industry 2021年 63巻 6月号

総説

焼酎およびブランデーによる
t-PA(tissue-plasminogen activator)産生促進

須見 洋行(SUMI Hiroyuki),丸山 眞杉 (MARUYAMA Masugi),矢田貝 智恵子(YATAGAI Chieko)
 
要旨
HeLa細胞を用いてt-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)産生能を調べた。t-PA産生能はバラの香り成分であるꞵ-フェネチルアルコールの添加で著しく高まることが分かった。同様の反応はヒト血管の内皮細胞でも起こると考えられ,焼酎あるいはブランデーでもそれが確認された。
 主としてヒト血管の内皮細胞で産生され循環血液中に分泌されるt-PAは,527個のアミノ酸からなる分子量約7万の糖たんぱくで,そのアミノ末端からフィンガー領域,EGF領域,2個のクリングル領域および活性領域から構成される(図1)。このt-PAは現在,虚血性脳血管障害,急性肺塞栓症および急性冠症候群に対する最も強力な血栓溶解薬として高い有効性が証明されている1, 2)。
 HeLa細胞を用いて香り成分(β-フェネチルアルコール)を添加し,24時間後の合成基質分解活性を比較したところ,t-PA産生増加が認められた。また,ヒト血管の内皮細胞による焼酎およびブランデーにも同様の添加効果が認められたので報告する。
 
 

瑯琊台(ランヤタイ)酒(中国酒)の機能性:t-PA産生と血小板凝集阻害効果

須見 洋行(SUMI Hiroyuki)
 
要旨
 瑯琊台(ランヤタイ)酒(中国酒)には強い線溶系亢進と血小板凝集阻害能のあることがわかった。前者はヒトHeLa細胞からのt-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)産生量で,また後者はヒト血液のADPを惹起物質として用いた場合の血小板凝集に対する阻害能で調べた。飲むだけでなく香りを嗅ぐだけでも体に作用する新しいカテゴリーの機能性酒といえよう。
 
 酒は飲む前の香りの段階で,すでにセラピューティック効果(自然治癒効果)があると考えられている1)。中国の茅台酒は1億円以上で落札されるなど人気は高いが,「燃えるような酒」といわれる瑯琊台酒は我が国ではほとんど知られていない。著者は北京を訪れた際に非常に優れた芳香を放つ瑯琊台酒に出会い,人間の組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)産生細胞に影響するのではないか(t-PAの産生は多くの細胞に影響を持つ)と考え,本実験を行った(図1)。
 
 その結果,日本の焼酎2, 3)にも劣らない,t-PA産生細胞に対する強力な添加効果および血小板凝集阻害能を見出したので報告する。
  
 

研究解説

チャーガ,コーヒー,ココア配合物における抗糖尿効果に関する研究

具 然和 (GU Yeunhwa) ,山下 剛範 (YAMASHITA Takenori),井上 登太 (INOUE Tota)
 
Anti- type 2 diabetic effect in fuscoporia obliqua, coffee and cocoa combinations.
Author: Yeunhwa Gu 1, Takenori Yamashita 2 and Tota Inoue 3
Corresponding author: Yeunhwa Gu 1
 
1 Chairperson International Affairs Department of Radiological Science, Graduate School of Health Science, Faculty of Health Science Junshin Gakuen University[1-1-1 Chikushigaoka, Minami-ku, Fukuoka 815-8510 Japan.]
2 Suzuka University of Medical Science
3 Mie breathing swallowing rehabilitation clinic
 
Key Words: Charga, Fuscoporia oblique, Cofee, Cocoa, Anti-diabetic effect, Detoxification
 
Abstract
  A tendency to increase has a diabetic now. Danger of a complication becomes a problem as one of the lifestyle-related diseases greatly, too. Diabetes is divided into type one and type 2 model. Type one model deiabetic is caused by destruction of β cell of pancreas, and it occurs for the childhood period. Type 2 diabetes is caused by insulin secretion imperfection, insulin resistance to happen by a habit or a hereditary factor. Type 2 diabetes holds 95% of a diabetic in Japan. We studied an effect of quality of natural product for this type 2 diabetes this time. Treatment of diabetes includes medical therapy and insulin medical treatment mainly. There is a weak point that both have many a side effect and mental physical burdens to suddenly decrease blood sugar level. It is said that an antidiabetes effect is provided in few side effects for quality of natural product as for charga (Fuscoporia Obliqua). However, an effect is slow, and continuous drinking is expected. There can be the thing that a unique flavor obstacles of charga on it continues, and drinking it. For this reason, we observed whether the antidiabetic effect could be obtained by combining the luxury products that we drink on a daily basis.
  The number of the lymphocytes. It was 12 weeks, and a meaningful difference was seen in a chaga + coffee treated group of BALB/c mice in comparison with control group. As for the lymphocyte measurement result of KK-Ay mice, increase of the number of the lymphocytes was seen in a chraga+ coffee treated group, charga+ cocoa treated groups in comparison with control group. A meaningful difference was recognized by a charga + coffee treated group in two weeks in particular, a chraga+ cocoa treated group in eight weeks.
  The glucose level. We passed in each crowd to BALB/c mice, KK-Ay mice, and the big change was not seen in the blood glucose level of time. The insulin density. It was BALB/c mice, and an upward trend of the insulin density was seen in a charga + coffee treated group, charga + cocoa treated groups in comparison with control group. Each the crowd big change was not seen in KK-Ay mice.  Therefore, it is thought that an antidiabetes effect and an immunity reinforcement effect are provided when they put a chaga and luxury goods (coffee, cocoa) together in this study.
 
要旨
 現在糖尿病患者は増加傾向にある。また,合併症の危険も大きく,生活習慣病の一つとして問題になっている。糖尿病はⅠ型及びⅡ型に分けられ,Ⅰ型糖尿病は膵臓のβ細胞の破壊に起因し,幼少期に発生する事が多くある。Ⅱ型糖尿病は生活習慣や遺伝的素因などにより起こるインスリン分泌不全・インスリン抵抗性に起因している。日本では糖尿病患者の95%をⅡ型糖尿病が占めており,本はこのⅡ型糖尿病に対する天然物質の効果について研究を行った。
 糖尿病の治療には主に薬物療法やインスリン療法がある。どちらも血糖値を急激に低下させるために副作用や精神的・肉体的な負担が多いという欠点がある。チャーガ(Fuscoporia Obliqua) は天然物質のため少ない副作用で抗糖尿効果が得られると言われている。しかし効果は緩やかで,継続的な飲用が望まれる。継続飲用を行うにあたり,チャーガの独特な風味が障害になることがある。このため,日常的に飲用されている嗜好品と組み合わせた場合でもチャーガの抗糖尿効果が得られるか否かを検討した。
 本研究では雄のBALB/cマウス,KK-Ayマウスを用いて,control群,FO+cocoa投与群,FO+coffee投与群に分類し,体重変化,血球細胞数,グルコース濃度およびインスリン濃度に対するチャーガと嗜好品であるコーヒー,ココアとの組み合わせによる抗糖尿効果について検討した。
 白血球数については,BALB/cマウス,KK-Ayマウス共にcontrol群に比較してFO+coffee投与群,FO+cocoa投与群に白血球数の増加が見られた。KK-Ayマウスでは8週におけるFO+cocoa投与群に有意な差が認められた。
 リンパ球数については,BALB/cマウスのFO+coffee投与群に12週でcontrol群と比較して有意な差が見られた。KK-Ayマウスにおいては,control群と比較してFO+coffee投与群,FO+coffee投与群共にリンパ球数の増加が見られた。特に2週におけるFO+coffee投与群,8週におけるFO+cocoa投与群に有意な差が認められた。
 グルコース濃度については,BALB/cマウス,KK-Ayマウス共に各群において経時的な血中グルコース濃度に大きな変化は見られなかった。
  インスリン濃度については,BALB/cマウスではcontrol群と比較してFO+coffee投与群,FO+cocoa投与群共にインスリン濃度の上昇が見られた。KK-Ayマウスには各群大きな変化は見られなかった。チャーガと嗜好品であるコーヒー,ココアを組み合わせた場合にも抗糖尿効果,並びに免疫増強効果が得られると考えられる。
  
 

連載

グルテン–沈殿要因−1

瀬口 正晴 (SEGUCHI Masaharu),吉野 精一(YOSHINO  Seiichi)
 
本論文「グルテンー沈殿要因—1」は“Celiac Disease and Gluten” (by Herbert Wieser, Peter Koehler and Katharina Konitzer) 2014 の第 2 章 Gluten- The Precipitating Factor の一部を紹介す るものである。
 
 穀物は世界中で最も重要な主食である。主な穀物は小麦,トウモロコシ,米,大麦,モロコシ,ヒエ,オートムギ,ライムギである。世界の耕作地のほぼ60%で栽培されている。トウモロコシ,米,小麦は穀物の栽培地域の大部分を占め,量は最も多くなる(2012年にはそれぞれ875,718,675百万トン1))。食品および動物飼料の生産に使用される。穀類は,穀粒と呼ばれる乾燥した一種子の実で穎果の形で生産され,果皮は種皮に強く結合している。穀物のサイズと重量は,かなり大きなトウモロコシ粒から小さなヒエ粒まで大きく異なる。穀物の構造はかなり均一で:果皮と種皮(ふすま)は胚と胚乳を囲み,後者はデンプン質の胚乳とアリューロン層で構成されている(図2.1)。オートムギ,大麦,米,および一部の小麦種(例:スペルト,エマー,インコーン)では,一般的な小麦やライ麦などの「裸の」穀物のように,殻は果皮と融合し,脱穀だけでは簡単に除去できない。
 
 

海外レポート

COVID-19パンデミック下での海外留学生活
〜スイス・ベルン大学に留学して〜 

日野 峻輔(HINO Shunsuke)
 
Abstract
 Currently, it is very difficult to have international academic exchange during the COVID-19 pandemic. In the midst of such a pandemic, I studied abroad at the University of Bern, Switzerland, and will describe the valuable experiences and circumstances that I was able to gain during my time there.
 
筆者は,2020年7月からスイス・ベルン大学医学部頭蓋顎顔面外科学講座にClinical and Scientific fellowとして留学している。本来は,2020年4月1日から留学開始の予定で3月下旬の出国を予定していたが,スイスならびに日本国内の新型コロナウイルス感染症患者の増加(2020年4月7日第一回目の緊急事態宣言の発令),スイスのロックダウンならびに外国人に対する入国制限措置の発出,直前で搭乗予定の航空便が運休するなど想定が全く出来ない事態となったため,止むなく延期することとなった。
 その後,スイスの滞在許可証所持者の入国許可の確認と,日本・スイス間の航空便の運航再開など状況が改善したこともあり(2021年5月現在,再び日本からの短期滞在許可・旅行客の入国許可は中断),ベルン大学への留学が可能となった。今回,機会を頂いたのでコロナ禍の現地の状況について報告したいと思う。
 

コーヒー博士のワールドニュース

ヒラタケが世界のキノコになる?

 
岡 希太郎
 食べ物としてのキノコの人気は何だろうか?筆者が大学院生だった頃,母校の,とある研究室で,俗名サルノコシカケと呼ばれる霊芝(中医薬のレイシ)の研究が盛んだった。何やら新発見があったようで,水溶性のβ-1,3-グルカンという多糖類が癌に効くとの話題がTVでも報道されたのだが,今では思い出話になってしまった。今では替りに,キノコはナイアシン(筆者が必死にPRしているニコチン酸のこと)を含む貴重な食べ物であることと,さらに,ごく最近になってからはキノコを食べると腸内菌が活性化するという論文を目にするようになりました1)。もう1つ,キノコを食べると,腸内の酪酸産生菌が増えるとの論文があります2)。この酪酸は,偶然の結果なのですが,腸の上皮細胞のナイアシン受容体(GPR109A)に結合して,主に大腸免疫系のバランスを改善することで,過敏性腸疾患や大腸癌を予防しているとのことです。まとめると,キノコにはナイアシンが含まれていて,食べるとさらに同じ受容体に結合する酪酸ができるのです。この2つにさらにβ-ヒドロキシ酪酸を加えて図1を描いてみました(説明は図に書き込んであります)。コーヒーとキノコはどちらもナイアシンを含んでいるだけでなく,キノコを食べると,ナイアシンと同じ受容体に結合する酪酸ができてきます。これらはどれもがナイアシン受容体GPR109Aに結合して,潰瘍性大腸炎,過敏性腸疾患,さらには大腸癌の予防に役立っているのです。
 

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

ザクロPunica granatum L. (ミソハギ科 Lythraceae)

白瀧 義明(SHIRATAKI Yoshiaki)
 
 梅雨の晴れ間,辺りを散歩していると人家の庭に鮮やかな朱色の花をつけた樹木を見かけることがあります。ザクロは,以前はザクロ科 Punicaceaeに分類されていましたが,今ではミソハギ科 Lythraceaeに属し,庭木などの観賞用に栽培され,果実は食用になる高さ5〜6mの落葉小高木で樹皮は灰褐色から褐色,生長するにつれ黒っぽくなり,細かく鱗片状に剥がれます。一年枝は4稜あり,短枝の先はとげ状になり,葉は対生で楕円形から長楕円形,なめらかで光沢があります。花は子房下位,蕚と花弁は6枚,雄しべ多数,花弁は薄くてしわしわです。果実は花托の発達したもので球状,果皮は厚く,秋に熟すと赤く硬い外皮が不規則に裂け,赤く透明な多汁性の果肉(仮種皮)の粒が多数現れ,果肉1粒ずつの中心に種子があります。ザクロの原産地については,トルコやイランから北インドのヒマラヤ山地にいたる西南アジアとする説,南ヨーロッパ原産とする説,およびカルタゴなど北アフリカ原産とする説などがあります。日本には9世紀頃,中国,朝鮮半島経由で渡来したとされています。
 

 随想
アルコール発酵をする酵母
新しい胞子形成用培地を作る

兎束 保之(UDUKA Yasuyuki)
 
1980年前後の生命科学では,生命の設計図といわれるDNAと,その設計図から作られたタンパク質分子が生命活動で果たす機能を直接結びつけて説明しようとする,分子生物学が急速に発展していた。研究の常套手段として,研究対象は簡単なものから複雑なものへと,広がってゆく。1950年代はウィルス(virus),1960年代は大腸菌を中心とした原核細胞,そして筆者が山梨大学で独自の研究ができるようになった1970年代には,真核細胞へと研究対象が移っていた。研究者達が口にするのは,“真核生物でありながら単細胞で生活する酵母は,真核生物を研究対象とするのに最適なモデル”という表現であった。学問の先陣争いに加わるつもりなら,その潮流に乗るべきであっただろう。だが,遺伝子を取り扱う,なかでも遺伝子組換え実験をするには,外部環境からは物理的に遮断された実験設備が整っていなければならない,という法規制が厳しく,当時の山梨大学では手も足も出なかった。与えられた環境の中で増殖する酵母を観察する「酵母との対話」という,身の丈にあった生理学を中心とした研究を続けざるを得なかった。対話する相手を,酸素が充分に供給されなければ増殖しないL.starkeyiだけに限定せず,酸素の供給が不十分であればアルコール発酵をして生き延びようとする酵母にまで広がってゆく展開の必然性には,逆らわなかった。