New Food Industry 2021年 63巻 5月号
原著
日本人成人男女における精製ごま油摂取による
抗酸化効果および血流改善効果検証試験:
ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験
瀬尾 幹子(SEO Mikiko),関 圭吾(SEKI Keigo),篠田 綾子(SHINODA Ayako),中西 智美(NAKANISHI Tomomi),飯尾 晋一郎(IIO Shin-ichiro),髙良 毅(TAKARA Tsuyoshi)
The antioxidant and blood circulation-improving effects of the intake of purified sesame oil on Japanese adults: A randomized, double-blind, placebo-controlled, parallel group comparison study
Authors: Mikiko Seo 1*, Keigo Seki 1, Ayako Shinoda 1, Tomomi Nakanishi 1, Shin-ichiro Iio 2 and Tsuyoshi Takara 3**
*Corresponding author: Mikiko Seo 1
Affiliated institutions:
1 Kadoya Sesame Mills Incorporated. [8-2-8, Nishi-Gotanda, Shinagawa-ku,Tokyo, 141-0031, Japan.]
2 ORTHOMEDICO Inc. [2F Sumitomo Fudosan Korakuen Bldg., 1-4-1, Koishikawa, Bunkyo-ku, Tokyo, 112-0002, Japan.]
3 Medical Corporation Seishinkai, Takara Clinic. [9F Taisei Bldg., 2-3-2, Higashi-Gotanda, Shinagawa-ku, Tokyo, 141-0022, Japan]
Key Words: pure white sesame oil, sesamin, sesaminol, vitamin E, tocopherol, blood flow test, redox marker
Abstract
Objective: This study aimed to investigate the effects of “pure white sesame oil” and “vitamin E-fortified pure white sesame oil” on antioxidant effect and improving blood circulation.
Methods: We conducted a randomized, double-blind, placebo-controlled, parallel group comparison study from December 1, 2018 to March 9, 2019 on 33 healthy Japanese adult subjects with daily feelings of fatigue and cold. The subjects were randomly assigned to the “pure white sesame oil” (A) group, the “vitamin E-fortified pure white sesame oil” (B) group, or the canola oil (P)group using a computerized random number generator (n = 11 per group) and took 14 g of A, B, or P daily for 4 weeks. The blood flow test, redox marker, simplified oxidative stress profile, and subjective symptoms were assessed before test-food consumption (Scr) and 4 weeks after the test-food consumption started (4w).
Results: The number of subjects in the full analysis set was 11 (43.7 ± 16.6 years), 11 (46.5 ± 13.6 years), and 10 (44.8 ± 12.3 years) from groups A, B, and P, respectively. In the blood flow velocity of the blood flow test, the measured values at 4w and the amount of change values from Scr were significantly higher in the A and B groups than in the P group (P < 0.01). The amount of change values of the antioxidant marker, potential antioxidant, is significantly higher in the B group than in the P group (P = 0.027). The subjective symptom, “Tiredness remained after sleep,” of the A group significantly improved compared to the P group (P = 0.088) after the 4-week intervention. Furthermore, no adverse test-food consumption-related event was reported.
Conclusions: These results suggested that the consumption of “pure white sesame oil” or “vitamin E-fortified pure white sesame oil” for 4 weeks of healthy Japanese adult subjects improved blood flow velocity and redox balance because of the antioxidant and vascular endothelial function-improving effects.
Trial registration: UMIN000035083
Foundation: Kadoya Sesame Mills Incorporated
抄録
目的:精製ごま油またはビタミンE添加精製ごま油を摂取することによる抗酸化および血流改善効果を検証した。
方法:日頃冷えや疲れを感じている健常な日本人成人男女を対象に,ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を2018年12月1日から2019年3月9日に実施した。試験参加者は試験食品として精製ごま油(A),ビタミンE添加精製ごま油(B)またはなたね油(P)を摂取させる群に11名ずつコンピュータ乱数にて割り付け,試験食品を1日14 g,4週間継続摂取させた。試験食品の摂取前後に,血流検査,酸化還元マーカー,簡易Oxidative stress profile,自覚症状を評価した。
結果:最終的な有効性解析対象者はFull analysis setとし,A群が11名(43.7 ± 16.6歳),B群が11名(46.5 ± 13.6歳),P群が10名(44.8 ± 12.3歳)であった。血流検査の血流速では,摂取4週間後の実測値および変化量において,A群およびB群がP群よりも有意に高値を示した(P < 0.01)。抗酸化能マーカーである血中Potential anti-oxidant(PAO)は摂取4週間後の変化量において,B群がP群よりも有意に高値を示した(P = 0.027)。自覚症状において,A群はP群と比べ,摂取4週間後に「寝ても疲れがとれない」の項目が改善する傾向がみられた(P = 0.088)。なお,試験期間を通して,試験食品の摂取に起因する有害事象は認められなかった。
結論:日頃冷えおよび疲れを感じている健常な日本人成人男女において,精製ごま油またはビタミンEを添加した精製ごま油の4週間摂取は,抗酸化作用や血管内皮機能改善作用により,血流速の増加や酸化還元バランスを改善させることが認められた。
事前登録
UMIN-CTR: UMIN000035083
資金提供者
かどや製油株式会社
【ノート】
シイタケ菌糸体の−20℃凍結保存における凍結保護剤の性能評価
~単糖,二糖,多価アルコール類の比較~
富樫 巌(TOGASHI Iwao),西脇 綾乃(NISHIWAKI Ayano),村上 希生(MURAKAMI Kio),梶 暉(KAJI Hikaru),鬼柳 春花(KIYANAGI Haruka),横田 喬央(YOKOTA Takao)
[NOTE]
Performance evaluation of several kinds of cryoprotectants, monosaccharides, disaccharides and polyhydric alcohols for shiitake (Lentinula edodes) mycelia preservation at −20℃
Authors: Iwao Togashi*, Ayano Nishiwaki, Kio Murakami, Hikaru Kaji, Haruka Kiyanagi, Takao Yokota
*Corresponding author: Iwao Togashi
Affiliated institutions:
National Institute of Technology (KOSEN), Asahikawa College,(2-2-1-6, Shunkodai, Asahikawa City, Hokkaido, 071-8142, Japan.)
Key Words: Edible mushroom; Mycelial disk; Preservation; Strain; Freezing
Abstract
The performance of several kinds of cryoprotectants (i.e. monosaccharides, disaccharides and polyhydric alcohols) for cryopreservation of shiitake (Lentinula edodes) mycelia at −20℃ was compared by measuring the survival rate until 20 weeks. The mycelium agar discs of four strains (ANCT-05072, NBRC 30877, NBRC 31107 and NBRC 31864) soaked in 40% (w/w) saccharide aqueous solutions (glucose, fructose, xylose, maltose, sucrose, trehalose and erythritol) or 10% (w/w) glycerol aqueous solution as cryoprotectants were incubated at 25℃ for 24 h before freezing. For 20 weeks, the survival rate of the four strains was 100% only in sucrose. With glucose, fructose and maltose, the survival rate until 20 weeks was 100% in two strains. In a week, the four strains' rates were low with polyhydric alcohols (erythritol, glycerol), and were less than 100% in the erythritol aqueous solution. Hight of the ability for cryopreservation in this study condition was sucrose > glucose ≒ maltose > fructose > trehalose > xylose > glycerol > erythritol. The order of the cryoprotectants' high performance except trehalose was disaccharides > monosaccharides > polyhydric alcohols. As for the mycelial growth rate after cryopreservation of the four strains with 40% (w/w) sucrose aqueous solution for 20 weeks, there was no difference between the controls (subcultured ones). In future studies, sucrose's performance is expected.
菌体ディスク法を用いる食用菌・菌株の凍結保存では菌種・菌株・凍結保護液の組合せによる差異があるが,−20°Cでは超低温の−85℃や液体窒素の−196°Cと比べて生存率が低く,特にシイタケ(Lentinula edodes (Berk.) Pegler)とヒラタケ(Pleurotus ostreatus (Jacq.) P. Kumm.)の−20°C凍結感受性が高い(死滅しやすい)ことが報告1, 2)されている。一方,著者らは食用菌・菌株の凍結保存の低コスト化を狙い,−20°Cの利用可能性を検討3, 4)してきた(加えて,本誌55(1): 6-12, 2013.; 62(6): 391-398, 2020.; 63(3): 177-184, 2021.参照)。その結果,シイタケ菌株においてグルコースやマルトースの40% (w/w)水溶液を凍結保護液に用いると10% (w/w)グリセリン水溶液よりも生存率が改善する3)こと,ヒラタケ菌株と40% (w/w)グルコース水溶液の組合せにおいて25°C(または7°C)で24時間放置する前処理によって−20°C凍結保存の生存率が改善される4)こと,およびシイタケ菌株と数種類の40% (w/w)糖水溶液の組合せにおいて25°C(または7°C)で24時間放置する前処理によって−20°C凍結保存の生存率が改善されることをそれぞれ明らかにした(本誌63(3): 177-184, 2021.参照)。
本研究では,凍結保護液にグルコース等の単糖,マルトース等の二糖,エリスリトール等の多価アルコール類の計8種類の水溶液を用いて−20°Cでシイタケ菌糸体を最大20週間凍結保存し,その生存率変化から単糖や二糖等の物質群別の凍結保護性能を比較した。
総説
サルコペニアとその予防としての栄養管理
窪田 倭 (KUBOTA Sunao)
我が国の高齢化のスピードは世界でも類を見ない速さで進み,2020年の65歳以上の高齢者数は3617万人で,総人口の28.4%となっている1)。75歳以上の後期高齢者は1871万人,14.9%で,100歳以上の超高齢者は約8万人で0.06%を占め超高齢化社会になっている2)。高齢になると身体機能の低下がみられるが,特に筋肉量や筋力の低下は移動機能(歩く・走る・立つ・座るなど)の低下を招き日常生活活動に支障をきたす。さらに,社会参加にも支障をきたし孤立して悪循環に陥る。また,単純な要因にて転倒・骨折を引き起こし要介護状態となる。厚生労働省国民生活基礎調査によると,高齢による衰弱は要介護になった理由の3位(13.3%)を占めている3)。要介護または要支援の認定者数は年々増加し600万人を超え,その内,約86%は75歳以上の後期高齢者が占めている4)。それに伴い介護保険総額も2000年の3.6兆円から2018年は約3倍の10兆円を超えている5)。
一方,総人口は年々減少し,生産年齢の人口は1995年の8726万人のピークを経て2019年では7505万人に減少し,2040年には6000万人になると推定されている6)。2042年には高齢者数は約4000万人になると推定されていることより,高齢者の医療や介護に対する経済的,社会的負担が生産年齢者層の肩に大きく掛かることとなる。高齢者の健康維持・増進は我が国においての喫緊の課題である。
加齢による筋肉量や筋力の低下をはじめとする生理的予備能の低下は,過っては生理的現象として「年のせい」あるいは「老化」として積極的な介入はなされていなかった。しかし,高齢者人口が増加している現状において,「転倒・骨折」などにより「寝たきり状態」すなわち要介護に導き,医療費増大の大きな要因となってきている。我が国において要介護になった要因について1位は認知症(18.0%),2位は脳血管障害(16.6%),3位は高齢による衰弱(13.3%),4位は骨折・転倒(12.2%)と報告されている3)。筋肉,骨に関連した要因が25.5%を占めている。「年のせい」あるいは「老化」で済ますことができなくなり,運動・移動機能の面での病態,治療戦略そして予防などの確立が求められている。
研究解説
キヌア粉の加工性の検討
石井 和美(ISHII Kazumi),小林 三智子(KOBAYASHI Michiko)
近年,キヌアはスーパーフードとして注目を浴びている。キヌアに含まれる豊富なミネラルだけでなく,数々の機能性成分が明らかになっているからである。キヌアは,米に混ぜ込んで炊飯する雑穀ミックスに登場することが多い。また,シリアルなどにも使用され,一般的に穀粒のまま使用されることが多い。また,茹でてサラダの具材として使用する,スープの具材にする等,工夫されてきてはいるが,日常食に使用する食材としては定着していない。キヌアに含まれるカルシウムや鉄などのミネラルは,現代人に不足しがちな代表的な栄養素であり,日常食に用いられる食材として定着しないのはとても惜しいことである。米に混ぜ込む方法は簡便なため広く普及している。しかし,米の消費量は年々減少傾向にある。総務省の家計調査によると2020年以降,一世帯当たりの年間品目別支出額はパンが米を上回り,令和2年においてはパンへの支出は米の支出の約1.4倍にまでになった1)。
一方,あわ,ひえなどの雑穀は,かつては日本の主食であった。米が広く普及したために消費量も生産量も減少し,現在日本の雑穀の食料自給率は10%程度といわれている2)。公益財団法人 日本特産農作物種苗協会の特産種苗32号(2021.1発行)の雑穀類の生産状況によると,令和元年,そばを除いた,あわ,きび,ひえなどの雑穀は岩手県が一大産地である。キヌアを生産していたのは山梨県のみ,作付面積はわずか140 a,収穫量は1 tだった。したがって,現在日本で流通するキヌアはほとんどが輸入品である。キヌアは南米アンデス地方原産で,ボリビアやペルーから輸入したものが多い。日本で作付けが増加しないのは,気候など生育環境の条件も影響していると予想されるが,1つの要因として,用途が少ない点も影響しているのではないかと考えられる。また,スーパーフードとして広く話題になり,入手しにくい状況が発生してもそれは一時的なもので,生産農家の安定した収益には繋がりにくいのではないだろうか。
連載
新解説 グルテンフリー食品中の擬似穀物の利用2
—キノア,ソバ—
瀬口 正晴 (SEGUCHI Masaharu),竹内 美貴 (TAKEUCHI Miki), 中村 智英子 (NAKAMURA Chieko)
本論文「新解説 グルテンフリー食品中の擬似穀物の利用2ーキノア,ソバー」は“Gluten-Free Cereal Products and Beverages”(Edited by E. K. Arendt and F. D. Bello)2008 by Academic Press(ELSEVIER)の第7章Pseudocereals を翻訳紹介するものである。
第4回 ヘルスフードアカデミックサロン
~機能性表示食品 新ルールの傾向と対策~
株式会社オルトメディコ
本編は,2021年2月25日に文京シビックホールにて開催された『第4回 ヘルスフードアカデミックサロン』の講演内容をご紹介します。
野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —
エゴノキStyrax japonica Siebold et Zucc.
(エゴノキ科 Styracaceae)
白瀧 義明(SHIRATAKI Yoshiaki)
5月の晴れた日,雑木林を散歩していると木々の間から梅に似た白い花がびっしり房状に咲いているのを見かけます。また,地面に目をやると木の下が真っ白な花で埋め尽くされている場合もあります。エゴノキの花はやや芳香のある合弁花で雄しべは10本,花冠は5片に深く裂けますが,ややつぼみ加減で咲き,清楚な感じのする花をつけることから庭木として人気があります。エゴノキは北海道〜九州・沖縄まで,日本全国の雑木林に自生する落葉小高木で株立ちになることが多く,幹はスラリと伸び上がり,樹皮は赤褐色から黒褐色で縦に細かい筋がたくさん走っています。果実はサポニン注1)を多く含み,口に入れるととても蘞いのでこの名がつきました。サポニンというと去痰,魚毒,溶血作用が頭に浮かびます。そのとおり果実は民間で去痰薬として使用されていましたが,用量がハッキリしないのでお勧めできません。新鮮な果実は泡立ちが良いので,洗濯の折,石鹸の代用に使用したり,川遊びの時など,子供たちが川に流して魚を獲るのに使ったりしたものです。これは果実に含まれるサポニンが魚のえら呼吸を止め呼吸麻痺になるのを利用したものです。エゴノキの果実の成分研究は古くからなされベンゾフラン化合物としてegonol1)が,また,サポニン・サポゲニンにはbarringtogenol C, barringtogenol Dとよく似た構造のjegosapogenin(=21-O-tigloyl-barringtogenol C), desacyl-jegosaponin2)などが報告されています。若い葉の裏側や枝には星の形をした淡褐色の星状毛がたくさんありますので時間に余裕があれば,是非,観察してみてください。