New Food Industry 2021年 63巻 1月号

新春巻頭言 コロナ禍での生活設計

 
坂上 宏

 
私は,留学から帰国後6年間,横浜市緑区の団地に住んでいた。敷地内の砂場や,小高い丘の上にある公園や保育園などで,近所の方々と親しく過ごさせていただいた。その当時が懐かしくなり,久しぶりに思い出の地を訪れた。アパート,附近の家並み,急な坂道も,ほとんど変わっていなかったことは嬉しかった。この辺りは,テレビドラマのロケによく使われる。我々が住んでいたアパートの室内もテレビで放映された。台所の壁,トイレ,風呂場も昔のまま残されていた。美しい山並みが画面に現れた。そこは何処であろうかとネットで検索したところ,静岡県北東端にある小山町が撮影の協力をしたと書かれていた。秋晴れの日に,コロナ禍から一時的にでも逃れようと,御殿場線の日帰り旅行に出かけた。御殿場線は単線である。足柄駅で下車した人数は,10名前後であった。駅員は見当たらない。乗り降りは,皆ICTカードで行う。ここは静かな町である。駅前広場には,数件のお店と駅に隣接している展示場しかない。時々,展示場からストリートピアノの音色が聞こえてきた。駐在所で,地元の方がお気に入りの富士山が見渡せる場所を教えてもらった。舗装された車道を歩いて登って行くと,東名高速道路を見下ろせる見晴らし台を見つけた。この辺りには,我々以外には観光客はいなかった。すれ違う車は全て富士山のバックナンバーである。巡回パトロールの人から,近くにオリンピックの宣伝に使われている棚田があることを教わった。カメラを設置して,棚田の写真を撮っていた人がいた。ガイドブックには紹介されていない絶景が目の前に展開していた。何でも地元の人に聞いてみるものだ。
 
ベートーベンは,我々に力と勇気を与えてくれる
今年は,ベートーベンの生誕250周年にあたる。ベートーベンは,生涯において,2つの革新的なことを成し遂げた。単一モチーフから交響曲第5番(運命)(作品番号67)と,緻密な情景描写を取り入れた交響曲第6番(田園)(作品番号68)の作曲である。9つの交響曲のうち,ベートーベンが最も気に入っていたのは第3番(英雄)である。この曲はバン,バンの「ピンタ二発」後に曲が始まる。交響曲第4番の第3楽章は,ワンテンポずれた音階,シンコペーションで始まる。第5番の冒頭のダダダダーンも,短い間合いを置いて始まる。古今東西のチェロソナタの最高峰と言われるチェロソナタ第3番(作品番号69)の第2楽章は,シンコペーションが効果的である。これら作品番号67, 68, 69の曲は,ほぼ同時に作曲されている。交響曲第7番(作品番号92)と交響曲第8番(作品番号93)もほぼ同時に作曲されている。同時に複数の曲を創作することにより,相互に影響し合い,質と新鮮味が高まるのだろう。変奏能力では,ベートーベンに適うものはいない。最初に現れた主題が,途中で,全く趣の異なる楽句にまで発展することもある。交響曲7番の第2楽章は,ワーグナーをして「舞踏の聖化」と大絶賛させている。ベートーベンは,晩年にもエネルギッシュに新境地を開拓している。7楽章から成る弦楽四重奏曲第14番は,シューベルトを熱狂させ,死期を早めたとも言われている。ブラームスが第一交響曲を完成するのに19年を要したのも,ベートーベンの9つの交響曲が全てのことを成し遂げてしまったためである。ベートーベンは,作曲者として致命的な耳の病におかされたにも関わらず,逞しく,力強く生きようとした努力家である。その音楽は,我々に力と勇気を与えてくれる。
 
コロナ禍対策:健康の維持と新しい挑戦
コロナ感染者の数が,世界的規模で増加している。コロナウイルスと共生する生活様式を真剣に考え直さなければならない。ほとんどの大学は,対面授業とweb授業の両方を取り入れている。Web授業の準備には相当な時間がかかるため,研究が滞ってしまう。大学では,必要不可欠な学生教育,研究,臨床を行い,自宅では講義準備,実験データの整理や論文作成を行うという2段階システムを有効に使えば,健康を維持し,感染の予防と仕事の能率化に繋がる。特に,臨床系の先生や,子育て中の女性は,いくら時間があっても足りない。基礎系の先生のテコ入れ(協力,ボランティア精神,利他)が必要である。ほんの少しのテコ入れで,止まっていた組織全体を動かすこともできる。
女性の支援は,家族の未来のための投資が増加し,経済成長にも繋がる。組織内の同僚との意思の疎通とスケジュールの共有が重要である。各部署にデジタル化を普及させれば,本格的な構造改革が実現できる。競争社会で勝利するためには,他の組織とのコラボが有効である。そうすれば,多様性が獲得され,一つの事業が失敗しても,レジリエンス(立ち直る力)が生まれ,多角的な収入源を開拓できる(図1)。
 事業を効率良く行うためには,タイムボクシング(何を,何処で,何時するか)の決定が重要である(図2)。「自分で主体的に,住む場所を選択して働く」地方移住を決断した人は,常に自分をアップデートし,何か新しいチャレンジを行えば,地域の活性化に貢献できるだろう。
昨年のノーベル平和賞に,国連世界食糧計画(WFP)が選ばれた。飢餓との闘いに努め,紛争の影響下にある地域で和平のための状況改善に向けて貢献し,さらに,戦争や紛争の武器として飢餓が利用されることを防ぐための推進力の役割を果たしたことが評価されたのだ。武力紛争や疫病が拡大する今,国を超えた連帯こそが求められる。コロナの教訓は,多国間主義,協調の大切さである。

 

原 著
カシス含有加工食品“ピントくるカシス”の摂取が健常者の眼機能に及ぼす影響: 
ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験

金井 貴義 (KANAI Takayoshi),高橋 悠太 (TAKAHASHI Yuta),山田 高広 (YAMADA Takahiro)
 

  Effects of the consumption of ‘Pintokuru-cassis’ foods containing cassis extract on eye functions in healthy Japanese subjects:
A randomised, placebo-controlled, double-blind, parallel-group comparison study
 
Authors: Takayoshi Kanai 1, Yuta Takahashi 2 and Takahiro Yamada 3
*Corresponding author: Takayoshi Kanai
**Principal investigator: Takahiro Yamada
Affiliated institutions:
1 YASOUKOUSO.CO., Ltd. (2F Eighteen Bldg., 2-1-6, Shibuya, Shibuya-ku, Tokyo 150-0002, Japan.) 
2 ORTHOMEDICO Inc. (2F Sumitomo Fudosan Korakuen Bldg., 1-4-1, Koishikawa, Bunkyo-ku, Tokyo, 112-0002, Japan.)
3 Ario Nishiarai Eye Clinic. (2F Ario Nishiarai, 1-20-1, Nishiarai sakae-cho, Adachi-ku, Tokyo 123-0843, Japan.) 
 
Abstract
Objective: This study aims to examine the effects of ‘Pintokuru-cassis’ containing cassis extract on eye functions in healthy Japanese adults.
 
Methods: We conducted a randomised, placebo-controlled, double-blind, parallel-group comparison study from 19 February 2020, to 5 June 2020. The study included 66 healthy Japanese adults with eye fatigue after operating visual display terminals (VDTs), who were randomly assigned to the ‘Pintokuru-cassis’ (active) group or placebo capsule (placebo) group using a computerised random-number generator (n = 33 per group). The subjects took three active or placebo capsules once daily for 4 weeks. We analysed the accommodative function and subjective symptoms pre- and post-VDT operation before test food consumption (Scr) and then after 4 weeks (4w).
 
Results: The number of subjects in the per-protocol dataset was 30 from the active group and 30 from the placebo group (12 males and 18 females in each group). Compared with the placebo group, the amount of change (the percentage of pupillary response of the dominant eye (%) divided by the dioptre (D)) pre- and post-VDT operation between Scr and 4w was significantly higher in the active group (P  =  0.049), with a mean difference of 1.1 %/D. The subjective symptoms in the active group significantly improved compared to those in the placebo group as follows: tired eyes (at pre- and at post-VDT operation), P = 0.003 and P = 0.039, respectively; objects being blurry (at pre-VDT operation), P = 0.048; watery eyes (at pre-VDT operation), P =  0.034. Furthermore, no adverse events related to test food consumption were observed.
 
Conclusions: ‘Pintokuru-cassis’ consumption for four weeks improved subjective symptoms associated with eye fatigue by preventing the decline in the accommodative function post-VDT operation in healthy Japanese subjects.
 
Trial registration: UMIN000039370
Foundation: YASOUKOUSO.CO.,Ltd
 
抄録
目的:カシス含有加工食品“ピントくるカシス”の摂取が健常者の眼機能に及ぼす影響について検証した。
 
方法:Visual Display Terminal(VDT)作業を行うと目の疲れを感じる健常な日本人成人男女66名を対象に,ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を2020年2月19日から2020年6月5日に実施した。試験参加者は“ピントくるカシス”を摂取させる(被験食品群)またはプラセボを摂取させる群に33名ずつコンピュータ乱数にて割り付け,試験食品を1日1回3粒,4週間継続摂取させた。試験食品の摂取前後に,目の調節機能,自覚症状を評価した。なお,縮瞳率による調節機能の評価およびアンケートによる自覚症状の評価はVDT負荷前後に行った。
 
結果:最終的な有効性解析対象者はPer protocol set(PPS)であり,被験食品群は計30名(男性12名,女性18名),プラセボ群は計30名(男性12名,女性18名)であった。被験食品群の摂取4週間後検査では,VDT負荷前後における優位眼の縮瞳率(%)を調節指標負荷量(D)で除した値の変化量は被験食品群の方がプラセボ群よりも有意に高値を示し,1.1%/Dの群間差が確認された(P = 0.049)。自覚症状において,被験食品群はプラセボ群と比べ,摂取4週間後検査の実測値でVDT負荷前および負荷後の「目が疲れることがある」,VDT負荷前の「視界がぼやけることがある」,VDT負荷前の「目がショボショボすることがある」の項目が有意に改善した(それぞれP = 0.003,P = 0.039,P = 0.048,P = 0.034)。なお,試験期間を通して,試験食品の摂取に起因する有害事象は認められなかった。
 
結論:VDT作業を行うと目の疲れを感じる健常な日本人成人男女において,“ピントくるカシス”の4週間継続摂取はVDT作業による調節機能の低下を抑制することで,目の疲れに関連した自覚症状を緩和することが確認された。
 
事前登録:UMIN-CTR: UMIN000039370
資金提供者:㈲野草酵素
 

研究解説
エネルギー産生に欠かすことができないビタミン様物質α-リポ酸の生合成経路

柴田 克己(SHIBATA Katsumi)
 

要旨
 エネルギー物質であるATP産生に関わる必須微量栄養素として,ビタミンとミネラルがある。これらは必須栄養素であるので,ヒトが栄養素欠乏に陥らないために摂取すべき量がライフステージごとに提示されている。一方で,体内で生合成される微量成分の中でATP産生に関与している物質の一つとして,α-リポ酸がある。これはビタミン様物質と呼ばれている。高齢期におけるフレイルの一因として,このα-リポ酸の生合成能力の低下に起因するエネルギー量の不足が発生している可能性がある。本研究解説では,ヒトにおける生合成経路に関する情報をまとめてみた。その上で,高齢者の健康を維持するために,α-リポ酸の生合成能力の生体指標としての尿中2-オキソ酸排泄量の活用,ならびにその生合成能力が低下しないようにするための栄養素補充量とを考察した。
 

 

納豆菌(Bacillus subtilis natto)の機能性および経口投与効果

 

須見 洋行(SUMI Hiroyuki) ,満尾 正 (MITSUO Tadashi) ,柳澤 泰任(YANAGISAWA Yasuhide),矢田貝 智恵子(YATAGAI Chieko)
 

要旨
 抗生物質およびジピコリン酸による抗菌作用,またビタミンK2による骨形成作用あるいは心臓病リスクの低下作用など,納豆菌(Bacillus subtilis natto)が持つ機能性は多岐にわたる。
 健常ヒトあるいは肺塞栓ラットへの経口投与実験では,納豆菌摂取により血栓溶解能(ELT短縮あるいはt-PA放出量)は増加,肺塞栓数(Thrombus count)は減少する。つまり,線溶能亢進による血栓症予防が期待できる。 
 ただし,使用される納豆菌(Bacillus subtilis natto)は,ナットウキナーゼの一次構造(275個のアミノ酸配列)あるいは基質特異性(Bz-Ile-Glu-(OR)-Gly-Arg-pNA分解能)の違いから判別される「真の納豆菌」であることが重要である。

 

唾液分泌に関わる調節因子~耳下腺アミラーゼ分泌とMARCKSタンパク質~
Regulatory factor for salivary secretion; parotid amylase release and MARCKS protein

佐藤 慶太郎(SATO Keitaro)
 

要旨
 唾液腺の一つである耳下腺の腺房細胞は,βアドレナリン受容体 (β受容体) 刺激により糖質分解酵素のアミラーゼを分泌する。β受容体刺激は細胞内サイクリックAMP (cAMP) 濃度の上昇により,cAMP依存性プロテインキナーゼ (PKA) の活性化を引き起こす。このPKAの活性化が,種々の細胞内シグナル伝達を介して最終的にアミラーゼ分泌に関与すると考えられている。また,Myristoylated alanine-rich C kinase substrate (MARCKS) はプロテインキナーゼC (PKC) のリン酸化基質の一つであり,このMARCKSのリン酸化は多様な細胞機能に関与する。そこで本稿では,著者らの研究グループが実験動物を用いた基礎研究で得た知見を中心に,耳下腺アミラーゼ分泌におけるMARCKSタンパク質の関与について概説する。

 

シリーズ5回目 健康食品の有効性・安全性評価におけるヒト試験の現状と課題
— 機能性表示食品としての最終製品を用いたヒト臨床試験(ヒト試験)における
クロスオーバー比較デザインの統計学的留意事項 —

鈴木 直子 (SUZUKI Naoko),田中 瑞穂 (TANAKA Mizuho),野田 和彦 (NODA Kazuhiko),柿沼 俊光 (KAKINUMA Toshihiro),馬場 亜沙美 (BABA Asami),波多野 絵梨 (HATANO Eri),山本 和雄 (YAMAMOTO Kazuo)
 

Current Status and Issues of Clinical Trials for Efficacy and Safety Evaluation of Health Foods
―Statistical considerations for crossover comparative design in clinical trials using final products as Foods with Functional Claims―
 
平成27年3月30日に制定された「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」により始まった機能性表示食品は,令和2年4月1日の6度目のガイドライン改正1)をうけて,さらなる市場拡大が期待される。最終製品を用いたヒト臨床試験(以下,ヒト試験)による届出だけではなく,機能性関与成分のヒト試験を実施して,その結果を研究レビューに用いる事例もあり,ヒト試験の実施も活性化してきた。直近のガイドライン改正では,最終製品を用いたヒト試験の枠組みは大きな変更もなく,原則として特定保健用食品と同等の試験デザインが採用される(表1)1)。つまり,機能性表示食品の制度下においては,並行群間比較デザインとクロスオーバー比較デザインの2つが推奨される(表2)2)。中でも「食後の血中中性脂肪の上昇関係」や「食後の血糖上昇関係」,「食後の血清尿酸値の上昇関係」に関連した表示を目指す場合は,クロスオーバー比較デザインが推奨される。しかし,「特定保健用食品の表示許可等について」や「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」ではクロスオーバー比較デザインにおける統計学的な留意事項は詳細に定められておらず,表2の下線部や保健の用途ごとの試験の留意事項として「作用機序等からみて十分なウォッシュアウト期間をとり,キャリーオーバー効果がないこと。」といった説明があるのみで,考慮すべき点や注意すべき点などが明示されていない。そこで,我々は不明瞭な点を明らかにすることを課題とし,最終製品を用いたヒト試験におけるクロスオーバー比較デザインの統計学的留意事項を本稿にまとめた。

 

連載 新解説 グルテンフリー穀物製品のマーケットについて(2)

瀬口 正晴 (SEGUCHI Masaharu),竹内 美貴 (TAKEUCHI Miki),中村 智英子 (NAKAMURA Chieko)
 

初期段階,NPD(New Product Development,新製品開発)プロセスの開発前段階で消費者をまとめる方法の1つは,いろいろなマーケット研究技術の利用だが,例えばエスノグラフィーやデプスインタビュー,フォーカスグループ,コンジョイント分析,官能分析のようなマーケット研究技術の利用である。これらの研究技術の目的は,消費者組織研究方法を通して消費者から生まれた情報を利用することであり,関連のある消費者区分同様その製品のアイデアを確認することであり,最後に消費者に受諾されるグルテンフリー製品のデザインとマーケットを助けることである。生まれたマーケット情報は,そこで消費者の新製品概念への消費者嗜好のモデルを作ることや,消費者の受諾を予測することに用いる事ができ,そしてこれらの考えの消費者区分の違いとマーケットの機会を確認する。もし新しいグルテンフリー製品が商業的にも成功し,消費者の受諾も得られるならば,この消費者誘導によるアプローチは,極めて重要である。さらに消費者統一を通して,会社は多分新しい,あるいは修正したグルテンフリー穀物製品のマーケット作成にスピードアップする事ができるだろう。

 

製品解説 バクチオール,オランダビユ果実油およびその製剤
フィトレチノールTMの表皮・真皮におけるシワ改善メカニズム
Anti-wrinkle Mechanism of Bakuchiol, Psoralea corylifolia Fruit Oil and PhytoRetinolTM on Epidermis and Dermis

宮坂 賢知 (MIYASAKA Kenchi),竹田 翔伍 (TAKEDA Shogo),山田 和佳奈 (YAMADA Wakana),下田 博司 (SHIMODA Hiroshi)
 

 年を重ねれば必ず「見た目年齢」(外観から受ける印象を基にした年齢)も増加していく。「見た目年齢」を決める大きな要因は,加齢とともに増加するシワ,たるみなどの顔面の変化である。若年層の肌トラブルでは目立つ毛穴,ニキビや肌荒れが上位に挙げられるが,年齢が上がるに伴い,たるみやほうれい線といった表情の変化にまで至る悩みが増えてくる。日本は,世界でも有数の長寿国であり,レチノール(ビタミンA)を主成分とする多くのシワ改善クリーム(医薬品)が使用されている。しかし,レチノールは安全性や安定性に問題があることから,これに代わる抗シワ成分として,植物由来の成分バクチオールが化粧品に使用されつつある。しかし,これまでのところ経口摂取でシワ改善作用が期待できる原料素材は少ない。オランダビユ(Psoralea coryliforia Linn.)はマメ科オランダビユ属の植物で,インドや中国などの熱帯・亜熱帯地域に広く分布している。オランダビユの果実(補骨脂)はアーユルヴェーダを発祥とし,中国薬局方にも記載されている。インドでは”バクチー”などと称されており,民間薬として乾癬,ハンセン病,白斑などの皮膚疾患に適用されている。含有成分は,主成分であるバクチオールをはじめ,フラボノイドやスティグマステロールなどが報告されている1, 2)。一方,日本では食薬区分上で食品扱いであり,ノコギリヤシ製剤やエナジー系サプリメントに使用されている。そこで著者らは飲む(食べる)シワ改善素材として,オランダビユ果実油を原料とし,レチノイド様作用を有する成分バクチオールを規格化した「フィトレチノールTM」を開発した。
 本稿では,「フィトレチノールTM」の原料であるオランダビユ果実油およびバクチオールの抗シワ作用に関する研究を紹介する。

 

コーヒー博士のワールドニュース
健康長寿とコーヒーの関係/知識は力

岡 希太郎(OKA Kitaro)
 

 コーヒーと健康の疫学研究では,「毎日コーヒーを飲んでいる人の寿命は長い」となっていて,その理由は「三大死因病で死亡するリスクが下がるから」です。三大死因病とは,心臓病,脳卒中,呼吸器疾患のことで,どれも高齢者が罹り易い老化関連疾患と呼ばれる病気です。これらの病気による死亡リスクが下がるのですから,寿命が延びることは容易に想像できます。国立がん研究センターが公開している日本人データを図1に示します1)。

 

新春随想
New Business Models and Lifestyle Choices Triggered by COVID-19: The Case of Restaurants and Delivery Businesses

Ryusuke Oishi

 
 Owing to the spread of COVID-19, our lives have changed dramatically. Consumer demand has shifted substantially from eating out to eating at home. As a result, restaurants and businesses are at a crossroads. To meet consumer demand, restaurants have started to actively develop takeout menus. Moreover, a new format of delivery is now attracting attention. In this study, we consider the current situation and future prospects for restaurants because of the influence of COVID-19.

 

COVID-19と戦う利器―エビデンスが語るマスクの有用性
Weapons for fighting COVID-19 ----Evidence shows us how useful masks are

肖 黎 (Li Xiao)
 

2020年10月に入り,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症例が世界中で再び大幅に増加,多くの国々は第三波を迎えた。感染者数が毎日数百人増えている東京都では,医療機関の負担が大きくなり,医療体制が逼迫する状況になりつつある。新型コロナウイルスのワクチンについて,アメリカの大手製薬会社ファイザーとモデルナが相次いで「90%超の予防効果がある」製品を発表した。しかし,日本にそのワクチンを供給できるのは恐らく早くても2021年の春になると思われる。冬場はウイルスの安定性と伝播力が高いため,それまでの数ヶ月間,日本中の感染リスクは極めて高い。この厳しい冬を如何に過ごすか,有効な治療薬がない新型コロナウイルス感染症に対して,戦う武器はないだろうか。そこで本稿では,マスクに関する最新研究結果を紹介する。PubMed上でマスクとウイルスをキーワードで検索すると,国際誌に掲載された論文数が2062報あった。図1で示したように,2019年まで論文数はせいぜい年間数十報だったが,2020年に入って,その数が急増し,1053報に昇った(中には6報が2021年の発表)。それは新型コロナウイルス感染症のパンデミックと戦うために,世界中の研究者がマスクの研究を急スピードで進めたことだ。我々も2020年4月からマスクの研究を始めて,論文2報を掲載した。

 

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —
オモトRohdea japonica (Thunb.) Roth
[ユリ科 Liliaceae  APG体系:キジカクシ科(クサスギカズラ科)Asparagaceae]

白瀧 義明 (SHIRATAKI Yoshiaki)
 

 年の始めに縁起物としてナンテン,フクジュソウ,ヤブコウジなど゙とともに,しばしばオモトが飾られます。オモト(万年青)は,関東以西の日本,中国に分布し,観賞用にも栽培される常緑の多年生草本です。根茎は太く,根際から長さ15〜50cm,幅約5cmの葉を数枚出し,葉は厚く,艶があります。春から初夏にかけて葉の間から長さ5〜20cmで淡黄色の太い花茎を伸ばし,その先に長さ3cm前後の穂状花序をつけます。花穂には直径5mmほどの花が密生し,各花の基部に広卵形で長さ2〜3mmの薄い膜のような苞がついています。花の構造は,花被片6枚,雄しべ6個で花糸はほとんど花被片に合着し葯は卵形です。子房は3室で各室には2胚珠があり,花柱は短く柱頭は3裂し,花粉は,カタツムリやナメクジなどの有肺類によって媒介されます。オモトはその重厚感のある植物体に比べ,花は地味で目立ちませんが,果実は直径約1cm,球形の液果で晩秋に赤く熟し,冬の林床ではひときわ目立ちます。また,昔から広く人々に愛好されている植物なので数多くの園芸品種があります。

 

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —(これまでのまとめ)

 白瀧 義明 (SHIRATAKI Yoshiaki)

これまで,本誌(New Food Industry)に連載してきた《野山の花(5年9ヶ月分,植物種:69種,【カタクリ[57(5), 51 (2015)]~オモト[63(1), 00-00 (2021)]】)》をまとめることにした。「野山の花」を執筆するにあたり,記載事項は,植物名(和名),植物名(学名:ラテン名),科名(和名),科名(学名:ラテン名),生薬名(和名),生薬名(学名:ラテン名),薬効・用途,成分,化学構造式,漢方薬,その他トピックス等,実に多方面にわたる。その中で最も気を使うのが植物の写真である。つまり,その植物の特徴をよく表している写真を探すことが何よりも大切で,さらに植物全体の写真,花,果実,葉,根の写真など,満足のいくものは,なかなか得られない。特に花の写真は,天候と開花時期がうまく合っていないとよい写真は取れない。中には,数年に渡って観察し,その採集場所へ何度も通い,ようやく,撮影に成功したのもある。誰もいない山で,花と向き合うのは,とても楽しい苦労です。植物の分類については,かつての植物の形態を主とした新エングラー分類から,最近は,遺伝子情報を加味したAPG分類が主流となり,科名や学名が変わってきている。調べれば調べるほど,未知の事柄に出会い,時の経つのも忘れてしまう。

新年号特別サービス。カラーPDFダウンロード先→野山の花(これまでのまとめ)
 

海外紀行文 2019年夏のスコットランド紀行
-ビフォーコロナ-(3)スコティッシュボーダーズ 

林田 千代美(HAYASHIDA Chiyomi)

 本スコットランド紀行最終回は,スコティッシュボーダーズ地区(ボーダーズという名の通り,イングランドとの境に広がる地域)について述べたい。この日も朝から車で移動した。エディンバラは大都市だが,一時間ほど南に行くと,スコティッシュボーダーズ地区に入り,羊がたくさんいる牧草地や丘陵地ののどかで雄大な景色が広がる。草原や雑木林が広がる中,ツイード川が流れ(毛織物のツイード生地はこの川の流域で開発された),農村の住居や小さなお城,そして,イングランドとの国境線付近であったため度重なる戦争で壊された修道院の遺跡が点在する。車中から見えた景色は,ひたすら牧草地と羊や牛,畑,川だったが,Google mapの航空写真を見ても,牧草地や畑がボーダーズの全域に広がっている。エディンバラ出身の文豪として前回ご紹介したウォルター・スコット氏は晩年,スコティッシュボーダーズのメルローズ近郊の邸宅で暮らした。スコット氏はスコットランド銀行の紙幣に描かれる偉人であり,エディンバラ大学卒,弁護士資格を有し頭脳明晰だが,幼少期には小児麻痺の療養のため数年間ボーダーズ地方で祖父母のもとで育った。その影響で,ボーダーズの自然をこよなく愛し,作品の中でも静かな美しい風景が多く描写されているのだという。